キラキラなお塩
「塩だと思うんだよね。」
先週からアメリカから我が家に10日間ほど泊まりに来ているジャッキーが、
青い瞳をわたしにしっかりと向けて呟いた。
私が準備してあげたスクランブルエッグをフォークで口に運ぶ仕草を止めて、
「リサが作るスクランブルエッグの美味しさの秘訣はこの塩だったのよ」
と。
ジャッキーがスクランブルエッグに振りかける私の「塩」。
しお。?
おいまて、もはや私のクッキングスキル関係ないやん。
とツッコミを自分の心の中でだけ入れておいて、その塩によって味つけられた黄色いぐちゃぐちゃに視線を落とす。
ジャッキーはプロテインとビタミンCの摂取を日々心掛けている。
特に大した理由はないけど、エネルギーを蓄えるために進んで摂るようにしてるっぽい(推測)
ということで、彼女が私の家にいる間は毎朝スクランブルエッグを用意してあげるようにしています。
数日前、キッチンで卵をかき混ぜる私の姿をみて彼女がまず驚いたのは、「菜箸」。
「え、日本人ってお箸で料理するの? なんかかわいい!」
そんな菜箸によってスクランブルされるジャパニーズエッグを食べて彼女は、
味までも普段実家で食べるものと違うと思ったらしい。
まぁ確かにアメリカの卵と日本の卵って若干違うと私も思うんだけど、
何が異なるのかはよくわからない。
決定的な違いはというと、私は朝食を調理するときはココナッツオイルを使うようにしている。
ココナッツの甘さが卵の優しい味を引き立ててくれるのがお気に入り。
「きっとココナッツオイルを使ってるからだよ。」と数日前に伝えておいたのだけど、
今朝、彼女はココナッツオイルではなく、「塩」が、彼女のお皿に無造作によそってある卵に革命を起こしているのだと気付いたらしい。
「きっと塩がアメリカのものと違うんだよ!日本の塩って質がいいのかしら!」
実は我が家には塩が数種類ある。
普通の塩とちょっといい塩。
でもここ数日間食卓においていた塩は、韓国の済州島のもの。
実は母が取り扱ってる商品で、母お気に入りの塩。
塩か。
今日の東京の天気は晴れ。
玄関から出ると春の柔らかい陽の光が気持ちよくて、「いい日だね、カリフォルニアみたい、寒いけど。」っておしゃべりしながら駅へ向かった。
ジャッキーは私の親友であるとともに、私の妹。
8ヶ月ほど彼女の家にホームステイをしていたのはもう4年も前。
仲がよくて、信頼しあってて、本当の姉妹のような私たちだけど、
月に何度かハリネズミのようにツンツン接するタイミングがある。
ホルモンのなせる技ですね。
何を言われても無視。声のトーンは明らかにだるそうで、話しかけないでくださいオーラ全開。
口癖は「Whatever(あっそ)」。
実際に2週間前はジャッキーがハリネズミになってたんだけど、今週は私の番。
なんとなく今日はホルモーナルになる予感がしていたので事前に彼女にハリネズミ警告していました。
「ステンドグラスの塔がある美術館があるらしいから連れてって!」という彼女のリクエストに答えて、高速バスで向かった先は箱根。
だがしかしここでトラブルが発生。
私が事前に調べて2時間もバスに座って向かっていたのは「ガラスの森美術館」。
でも彼女が行きたいのは、「彫刻の森美術館」。
目的地を間違えるという大失態を犯してしまったのです。
気付いた時にはもうバスにのって40分以上が経過していたころ。
「彫刻の森ってどこー!!」ってパニックになりながらも平常心を装う。
身体中の体温も急上昇。
寝坊して、渋滞に巻き込まれ、すでに予定よりも時間が押していたのに、さらに募るイライラ。
「美術館内で過ごす時間が短くなるじゃん」と明らかに不満そうなジャッキー。
空がだんだん曇ってきた。
幸い、彫刻の森美術館は、停車予定だったバス停からタクシーで10分ほどしか離れていなかったので、どうにかスムーズにたどり着くことに成功。高速バス車内のWiFiと神様に感謝。
安心すると、精神的疲労とホルモンがめちゃくちゃになったせいで起こる体力的疲労がいっきに重力を強化して、私はげっそりテンションは急降下(笑)
そんな私とは反対に、ジャッキーはお目当てのステンドグラスが観れてご機嫌なり。
「新しいハッピースポットをみつけた♡」なんていいながらくるくる回ってる。
確かに、小さな塔の壁一面に敷き詰められている色とりどりのステンドグラスは、一日中観ていられるくらい綺麗だった。
ただ私の心の内はというと、
「この山のなかからどうやって東京に帰るんだろう」
「ちゃんとバス乗れるかな」
「もう疲れたし、ご飯食べてないや」
などと、アメリカからきた妹が心配にならないようにしっかりしなくちゃと責任感を勝手に感じてしまい、憂鬱でした。しかも雨が降り始めた。
小田原行きのバスには無事に乗れたものの、山道が渋滞していて駅まで1時間もかかり、ギュウギュウ詰めのバスの中ではもうヘトヘト。ホルモンの乱れのせいで疲れやすくもなっているし。
ハリネズミモードに加え、疲労がのしかかり、心の中では私に頼りまくりの彼女への不満がボコボコと湧き上がってきた。
「こんなに不満なのにどうして親友なんだろう」なんて思ったりもした。
まぁどうにかこうにかおうちに到着。
都内に着いてからは安心したおかげか気持ちも軽くなってた。
「もしもしママ?今日はね、、、」ってジャッキーがいつも通りアメリカのお母さんにFaceTimeを始めたので、邪魔をするまいと寝室で音楽を聴いていると、
「リサの塩がね、とっても美味しいのに、韓国のだから日本じゃ買えないの」
まって、そんなにその塩が好きなの?
ただの塩だよ?
そんなに卵を美味しくしちゃうの?
なんだか、ふふっと笑えてきた。
「そんなに好きなら、予備にもう1瓶あるからあげるよ、どうせママの商品だからすぐ手に入るし」
そういって彼女の目の前にポンと塩を差し出すと、
「うっそーーーーー!!!塩だ!!!」と大喜び。
弾ける笑顔であんまり喜ぶものだから、つられて私と電話越しのホストママまで爆笑。
これは母に知らせようと、バスルームで電話していると、リビングからジャッキーの泣いているのか喜んでいるのかわからない悲鳴が聞こえてきた。
数秒たつと私がいるバスルームまでスキップしながらやってきて
「塩をもらってこの上なく嬉しかったのに、さらに帰国日の次の日、学校が休校になったのー!もう本当に幸せすぎて涙がでるわ!」って興奮しながら私にハグをしてきた。
本当に泣きながら喜んでいる姿がこれまたあどけなくて、
でもきっと夜が更ける時間の疲労で起こる謎のテンションのせいで興奮しているんだろうなと思うと、なんだか可笑しくて
バスルームで一緒に涙が出るくらいお腹を抱えて笑った。
あぁ。大好きだな。
塩や休校で、こんなにも喜べる友達、世界中のどこを探しても他にいないかもしれない。
この子はやっぱり私の親友だ。
親友になってもうすぐ5年になります。
思い返してみれば、どんなに不満が募っても5時間以上彼女を嫌いになれた試しがないんです。
すぐに話したくなる。一緒に笑っちゃうことがある。
ホルモンと心境が乱れる期間以外でこの子に本気で不満を抱いたことがないかもしれない。
あぁ、今日の私は本当に疲れていたんだろうな。
外食続きで栄養もちゃんと摂取できていなかったし、卵だけじゃなくて野菜もちゃんと食べなくちゃな。
「どうしてこの子と親友なの?」そう不満になることはお互いこれからもあると思う。
女の子だもん!
(世界中に女性大統領が誕生するとホルモンの乱れで戦争が始まっちゃうかもしれないレベル!)
でも、半日も経てばまたこうやって愛おしく思える。
彼女は私の宝物。
ひとつまみの塩で幸せになっちゃう彼女が親友として隣にいてくれる私の人生は本当に輝いている。
2コメント
2017.03.18 05:50
2017.03.18 05:44